自分の感受性くらい
自分の感受性くらい 茨木のりこ
ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて
気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか
苛立つのを
近親のせいにはするな
なにもかも下手だったのはわたくし
初心消えかかるを
暮らしのせいにはするな
そもそもがひよわな志にすぎなかった
駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄
自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ
茨木のりこさんという詩人を知ってからそんなに時はたっていない。けっこう有名な詩人のようだから私の不勉強ということになる。私の父と同じ大正15年生まれとなると、心情的に近しく感じる。父は叱咤したり言葉で諭す人ではなかった。その分却って厳しい感じが伝わってきて怖い存在だった。この詩はなんだか父の無言の背中に似ている。この直球の力強さがなんとも心地よい。